甲状腺中毒症

甲状腺の検査

甲状腺機能検査では、FT3(遊離トリヨードサイロニン)とFT4(遊離サイロキシン)、TSH(甲状腺刺激ホルモン)の数値を調べていきます。 甲状腺超音波検査(甲状腺エコー)では、甲状腺の大きさや形状、発症部位などを調べます。

甲状腺ホルモン FT3、FT4

甲状腺ホルモンは、T3(トリヨードサイロニン)とT4(サイロキシン)の2種類あり、これらはTSH(甲状腺刺激ホルモン)の刺激によって甲状腺から分泌されます。T3、T4は血中で99%以上がタンパク質と結合し貯蔵用としてプールされており、FT3(遊離型T3)、FT4(遊離型T4)といったタンパク質と結合していない微量の遊離型ホルモンが実際に作用します。因みに生物活性(身体への影響力)はT3の方がT4の約4~5倍高いとされています。

甲状腺刺激ホルモン TSH

TSH(甲状腺刺激ホルモン)とは、脳下垂体から分泌されるホルモンのことで、甲状腺ホルモンの分泌を促す作用があります。TSHは甲状腺ホルモンではありませんが、TSHの数値を計測することで、甲状腺ホルモンの過不足を調べることができます。甲状腺ホルモンが不足するとTSHは上昇、甲状腺ホルモンは過剰になるとTSHは低下します。
それぞれの数値の正常範囲は以下の通りです。
※測定方法によっては、多少変動する可能性があります。

FT3 2.3 ~ 4.0 pg/mL
FT4 0.9 ~ 1.7 ng/dL
TSH 0. 5~ 5.0 μU/mL

甲状腺中毒症とは

甲状腺ホルモンが過剰に血中に認められる状態を甲状腺中毒症と呼びます。
バセドウ病などの甲状腺機能亢進症無痛性甲状腺炎亜急性甲状腺炎などの破壊性甲状腺炎に伴う甲状腺ホルモンの過剰状態が主なものとしてあげられます。

甲状腺中毒症状とは

甲状腺ホルモンの過剰による症状のことです。以下のような症状が現れます。

  • 安静時でも動悸がある
  • 手の震え(文字が上手く書けない・箸がつかみづらい)
  • 多汗、暑がり、微熱
  • 疲れやすい
  • 下痢、通じが良くなった
  • 体重減少、食事量のわりに太らない
  • イライラ、落ち着きがなくてソワソワする、眠れない
  • 無月経(生理が来なくなった)、生理不順、不妊

甲状腺機能亢進症とは

甲状腺機能亢進症とは甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される疾患の総称です。代表的なものとして「バセドウ病」が挙げられます。また稀に甲状腺ホルモンを分泌する結節による場合もありますが、この場合は通常甲状腺ホルモンの分泌過剰は軽度にとどまります。

バセドウ病について

バセドウ病はTSH受容体刺激型抗体が産生されることによる自己免疫疾患の一つです。若年層の女性に多い傾向があり、日本では全人口の0.5%程度いると言われています。
甲状腺ホルモンの過剰分泌が起きることで、全身の新陳代謝が早くなり、動悸や震えなどの症状を引き起こします。放置すると重症化して、心臓への負担が大きくなってしまいます。長期間の甲状腺ホルモン過剰状態が心房細動と呼ばれる厄介な不整脈を引き起こしたり、心不全に至る場合もあり、更には死に至ることも起こりえます。
しかし、適切に治療が行われ、指示に従って生活していただければまず確実に病状改善できる病気です。身体的、精神的ストレスは全て悪化要因と捉える必要があり、それらが抗体産生のきっかけや悪化要因になりえます。そのため専門対応する医師にはカウンセリング能力も求められ、薬だけに頼っているとうまく管理できないことも多々あります。
できるだけ早く受診し、適切な治療を受けましょう。

バセドウ病の症状

甲状腺中毒症の症状に加え、甲状腺のびまん性腫大、眼球突出、物が二重に見えるなどの特有の眼の症状が認められます。

バセドウ病の検査と診断

バセドウ病の検査と診断血液検査と心電図検査、甲状腺超音波検査を行い、検査結果で以下の内容がないかを確認してから診断をします。

  • FT4(遊離型T4)、FT3(遊離型T3)の上昇(甲状腺ホルモン分泌の指標)
  • TSH(甲状腺刺激ホルモン)の抑制
  • TSH受容体抗体(TRAb)陽性(無痛性甲状腺炎でも陽性となる場合があります)
  • 甲状腺の血流増加、甲状腺の腫れ など

バセドウ病の治療

薬物療法、放射性ヨード(ヨウ素)を使用するアイソトープ治療、手術療法があります。

薬物療法

アイソトープ治療や手術療法は甲状腺ホルモンがとても高い場合には治療による病状悪化の危険を伴うため、まずは薬物療法にて甲状腺ホルモンの改善を目指します。処方する薬を医師の指示に従い、飲み続けていただきます。稀に重い副作用が現れるリスクがあるため、こまめに通院していただきます(3か月程度は2週おきに採血検査による副作用評価が必要です)。

薬物療法の副作用
薬物療法

要注意な副作用として、白血球減少症と顆粒球減少症が挙げられます。1000人に2~3人程度の確率で起こります。稀な副作用ですが、危険な副作用なので、服用中にのどの痛み、39度を超える高度の発熱などが起きた場合は、速やかに連絡してください。 よく見る副作用は、かゆみやじんましん、肝機能障害などです。
これらは軽症であれば薬剤使用で改善できますが、広範囲の皮膚症状を認めたり継続的に肝機能の悪化が認められる場合は薬剤の中止変更を行います。

アイソトープ治療

薬物療法で改善されなかった方、薬剤の副作用が強く出た方、手術後再発した方、心臓や肝臓系の持病がある方、短期間で病状を安定化させたい方などにおすすめします。
アイソトープ治療とは、放射性ヨードを用いた治療です。甲状腺のサイズを縮小させ甲状腺ホルモンの分泌低下を目指します。欧米ではもっとも一般的な治療法となっています。状況によっては確実に甲状腺機能低下症を目指して治療し、甲状腺ホルモンの補充を行って基準範囲に収まるようコントロールします。一度アイソトープ治療を行うと、甲状腺が周囲の組織と癒着しその後の手術療法は困難になります。

手術

甲状腺の腫れが大きい方や、薬物療法でのコントロールが困難な方、薬剤の副作用が強く出た方、ごく短期間で病状を安定化させたい方を対象にしております。通常甲状腺の全摘出を行い、その後甲状腺ホルモンの内服での補充療法を行います(亜全摘といって一部甲状腺組織を残す場合もあります)。
手術を検討される患者さんには、術後の後遺症や傷跡などのお悩みをヒアリングし、連携先の病院へご紹介します。

破壊性甲状腺炎とは

甲状腺ホルモンを産出する細胞が破壊され、血液中に放出された甲状腺ホルモンの濃度が高まり甲状腺中毒症を引き起こすことを破壊性甲状腺炎といいます。代表的な疾患に「無痛性甲状腺炎」と「亜急性甲状腺炎」が挙げられます。

無痛性甲状腺炎について

甲状腺には「ろ胞」と呼ばれる小さな袋のようなものがたくさん集まっています。ろ胞の壁である「ろ胞上皮細胞」で甲状腺ホルモンのもとをつくり、コロイド(ろ胞の中に溜まっている液体)にストックしています。甲状腺に対する免疫の異常などで細胞の破壊が起こると、コロイドにストックされている甲状腺ホルモンが血中に放出されるため、甲状腺ホルモンの濃度が高まり甲状腺中毒症を引き起こします。
甲状腺の破壊は徐々に進み、痛みがないことから無痛性甲状腺炎と呼ばれます。多くの場合、血中甲状腺ホルモンは3ヶ月以内に正常化します。

無痛性甲状腺炎

亜急性甲状腺炎について

甲状腺に炎症が生じ細胞の破壊が起こると、血中に甲状腺ホルモンが放出され濃度が高くなり甲状腺中毒症を引き起こします。炎症による発熱や痛みを伴う甲状腺の腫れなどの症状を伴います。感冒の後に起こることがよくあり、ウイルス感染によって生じる可能性もあります。自然と炎症はおさまり甲状腺中毒症状も治りますが、高熱や首の痛みがひどい場合は、症状に応じてステロイドや抗炎症薬の投与が必要になります。

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